は じ め に
 『健康』のための運動とはいっても、漠然とした『健康』というだけでは、必ずしも長期にわたって継続することは容易ではありません。「やせるため」とか「キレイに泳げるように」とか「腰痛の予防」といったハッキリとした目的も必要でしょう。そんな目的に適うように、各章毎にテーマ設定をしています。


第3章 ストローク技術
●平泳ぎ 揚力
 泳ぎを考える上で“揚力”の概念は大切です。“揚げる力”と書きますが、浮力とは違い上方向ばかりに働くとは限りません。発生する方向は抗力の方向によって規定されます。
抗力は運動の方向に対して常に反対方向に働き、揚力は、抗力に対して直角に働きます。

 飛行機の翼の形を思い浮かべます。風(空気)は、翼に当たるA点でその上面と下面とに分れて流れます。空気がB点まで達するのに翼の形状のため、下面を通るよりも上面を通る方が遠回りになります。そのため上面の差圧が陰圧(空気の密度が低い)になり、上方向の力(揚力)が発生します[図(1)]。飛行機では翼の形状だけでなく翼の角度を変えることによって翼の上下面の差圧を変え発生する揚力を調整します[図(2)]。水泳でも拳の角度を変えることによって揚力が発生します。

●平泳ぎ プル
「坊主頭をなでるように」とか「逆ハート型を描くように」などと説明された時期があります。その頃の水平姿勢のままで泳ぐ“フラット”泳法から、上下動の大きい1980年代の“シーホース(タツノオトシゴ)”泳法を経て、今ではスプリント距離を除いて“ウェイブ”が主体です。
 より効率的な泳ぎを求めて大きく変わってきた平泳ぎは、“ウェイブ”の登場でほぼ完成されたと見ることができます。これはプルの変化に依ります。
 平泳ぎのプルは、殆どが揚力によります(キャッチからフィニッシュまでの後方への手の移動が少ない)から掌の向きは非常に大切です。プルサイクルをアウトスカル、インスカル、リカバリーの3つに分けてみます。
 アウトスカル(手を左右に開く)は、前傾姿勢を保ち沈み込みながら前方に進みますから掌は後ろ向き(前方への揚力発生)[写真(1)]。
 インスカル(手を胸の前に揃える)は、顔上げ(呼吸)とウエィブ特有のカラダの持ち上がりのために掌は下向き(上方への揚力発生)[写真(2)]。
 リカバリー(手を前方に戻す)では、無用な水没を防ぐ為に掌は下向きです[写真(3)]。
 アウトスカル・インスカル・リカバリー、それぞれの掌の向きを基本として30度前後の迎角を作りながら手は動きます。

●平泳ぎ プルの軌跡
 カラダの周りにできる波の波動に合わせてカラダを運ぶ泳法が“ウエィブ”です。腕や脚、カラダの一連の動きは、波の波動にマッチさせます。プルパターンも同様です。アウトスカルでは、手は水面下20〜30cmほどの深さにあります[写真(1)]が、インスカルからリカバリーへの移行期には手は水面直下にあります[写真(2)]。リカバリーはカラダの前にできた波の前面に沿って斜め下方向に行います。そのようなプルの軌跡を横から見るとクロールや背泳ぎ同様に前下がりの軌跡となっています。

 平泳ぎプルはリカバリーを水面下で行いますから、クロールやバタフライのように後方に水をかくと、リカバリーが大きな抵抗となります。できるだけリカバリー時のロスをなくすために推進力の多くは揚力によります。ですから、カラダの水平面から見た軌跡は左右に広く前後に短かくします。前後方向の移動が大きいとリカバリー時に掌と前腕が大きな抵抗となります。

掌の正しい向きと併せて、前下がりで左右に広く前後に短くプルすることが大切です。

●平泳ぎ 目線
 平泳ぎは、バタフライと同じようにカラダの周りにできる波の波動にあわせて多少の上下動(ウェイブ)をしながら進みます。バタフライとは違ってウェイブの先導役はプルです。前方でのグライド時には水面下20cmほどにある手先は、プルのフィニッシュ時には水面直下(一流選手あっては瞬間的に水面上)まで移動しています[写真(1)]。その後のリカバリーが水面下20cmへ向けて斜め下方向に行われる[写真(2)]ことによってカラダがウェイブします。このときに目線は、常に前方、水平に対して約45度下向きにあります。若干の目線の移動はありますがわずかなものです。目線の上下動が大きすぎるとプルの軌跡の上下動も加わってウェイブが大きくなりすぎます。

 “目線の移動はわずか……”と述べましたが、逆にわずかではありますが目線移動のタイミングは微妙です。特に、顔の水中への戻しのときの目線の移動タイミング。どうしても、プルのリカバリーに先立って目線を下向きにしてしまう(顔を戻す)傾向があります[写真(3)]。プルのリカバリーに先立って目線を下向きに移動させる(顎を引く)と、それに連れて腕やカラダの位置が下がり(深くなり)ます。せっかく、腕やカラダが、前面にできた波を乗り越えようとしているのに、腕やカラダの位置が下がってしまったのでは、波を乗り越えようにも乗り越えられません。かえってカラダが波にぶつかり不必要に波を大きくしてしまいます。必ず、腕を前方に伸ばしてから目線を下向きに移動させる(顔を戻す)ようにしましょう[写真(4)]。

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