は じ め に
 『健康』のための運動とはいっても、漠然とした『健康』というだけでは、必ずしも長期にわたって継続することは容易ではありません。「やせるため」とか「キレイに泳げるように」とか「腰痛の予防」といったハッキリとした目的も必要でしょう。そんな目的に適うように、各章毎にテーマ設定をしています。


第2章 成人のカラダと水泳
●血圧
 心臓の余力という点において、中高年の方は子供と比べてハンデです。10歳と60歳が、それぞれ心拍数150拍程度の運動をしたとします。10歳は150拍では、多少の苦しさはありますが、まだまだ60拍分の余力がありますから大丈夫です。60歳は、150まで心拍数を上げてしまうと余力は10拍分しかありません。前で述べた酸素供給量の公式からわかるように、このときにカラダは1回の拍出量を増やそうとします。速く心臓を動かすこと(心拍数をあげる)ことが限界に近づいていますから、1回の拍出量を増やすことで賄います。1回の拍出量を増やすということは、心臓というポンプが力強く働くということ。心臓のポンプの力を強くするということは、即ち血圧上昇と言うことです。
 60歳の方の血管は、10歳の子供と比べると肥厚し弾性は低下しています。中高年になれば、多かれ少なかれこの傾向(動脈硬化)があります。最初は飴色に輝く輪ゴムも、長く使っているとひび割れ、弾性が低下します。無理やりに引っ張ると切れてしまいます。その人のもつ最高心拍数のギリギリまでに心拍数を上げるような運動強度の高い運動は、血圧上昇を引き起こし、結果、脳内出血やクモ膜下出血、動脈破裂などの危険を増加させます。
 医療技術の進歩で、伝染性の疾患は大幅に減少しました。かわってカラダの老化と運動不足などによって起こる生活習慣病(高脂血症/高血糖症/高血圧など)が増えてきています。ガン以外の生活習慣病は、殆どが栄養の摂り過ぎによる体内脂肪の増加と関係します。栄養の摂りすぎは、血中脂質の増加を招き、これは動脈硬化を引き起こします。生活習慣病の諸悪は血中脂質の増加にあると言っても良いほどです。散歩や水中歩行を継続的に行うと血中脂質が燃焼します。血液の流れが促進され体温が上昇し、血管が弛緩し、血管内壁の脂肪も溶解します。
 散歩や水中歩行のような有酸素的な運動は中高年の方の健康維持増進にとっても効果的です。

●プールでの運動
 プールでの水泳や各種の水中運動が、中高年の方にとって非常に良い運動であることは広く知られています。
流水による皮膚刺激だったり、水温と体温との適度な温度差による活発な熱生産と血液循環、腹式呼吸による呼吸筋の鍛錬、無重力による関節負担回避など今更言うまでもありません。
 『長い』距離を心拍数の大きな変動無しに『楽に』美しく効率良く『速く』泳げるような技術と体力の獲得が目標です。短距離泳者ではなく長距離泳者のように……。目指すは、「長い距離を楽に速く」泳ぐことです。

 具体的なプールでの練習方法についてみていきます。
水泳の熟練者だと30分とか1時間といった単位で休まずに泳ぎ続けることができます。しかし、そうした一部の方を除いて、泳ぐことによって心拍数が上がり25mとか50m、あるいは100m続けて泳げば休憩が必要になります。それだけ運動強度が高いからです。
 先にも述べたように中高年の方は、心拍数が上がるに連れて血圧も相当にあがっています。
 口を閉じての鼻呼吸だと苦しい場合には、「運動強度が少し高め」かもしれません。目安として考えて下さい。
 プールで休憩時間をいれずに長い時間有酸素的に運動を続けるためには、泳ぎと泳ぎ以外の運動(水中歩行やジョギング)を組み合わせながら心拍数の上下動の少ない運動をします。
 例えば25mプールで、往きは泳いで行って帰りは歩いて帰ってくる。あるいは、10ストローク泳いで20歩歩くなどです。このように休憩時間を入れずに最低30分間継続できるような運動を行えば、メリットを最大限に引き出す効果的な運動が可能です。
 運動中に心拍数の上下動が少なく、一定状態を保てるような運動をめざしましょう。

第3章 ストローク技術
●クロール 前下がりのプルパターン
 前方に重心をかけるために前下がりの前傾姿勢を作りながら泳ぐことが大切です。同時に横から見たときの腕のかきの軌跡(プルパターン)も前下がりになるようにします。初心者では、腕の入水後のキャッチポイントが浅く、ストロークに連れて徐々に深くなります[写真1]。上級者は、深いキャッチポイントから、徐々に手は浅くなりリカバリーにつながります[写真2]。

 

 逆に考えると、深いキャッチができるようになることが、クロールが上達することでもあります。初心者の浅いキャッチを深いキャッチへと移行させるためには、ローリングを正しく身につけることが大切です。
 水中の軌跡とリカバリーの軌跡とは大きな関係があります。プルは、肩や肘などを中心とした関節の円運動の複合ですから、一連の円運動が一つの流れを持ち、且つ左右の腕の動きが双対なものであることが大切です。ですから水中の軌跡が前下がりであればリカバリーの軌跡も横から見て前下がりになります。リカバリーの軌跡を前下がりにできると水中のプルパターンも前下がりにすることができます[図]。


●クロール ローリングとリカバリーの軌跡
 ローリングがまったく無ければ、腕が肩の真上で鉛直に上がった瞬間が手先の最高点です。
※説明を分かりやすくするためにリカバリー中の肘の曲げ伸ばしは無視しています。

 しかし、実際にはローリングが伴いますから手先の最高点は必ずしも腕が鉛直線上に上がった瞬間ではありません。
 腕の動きに合わせてカラダがローリングするのではなく、ローリングに連れて腕が動きます。ローリングが最大になったときに肩の位置が最も高くなります。プルのフィニッシュを終え、フォロースルー時(呼吸時にあっては顔が上がっている時)です。肩の位置が最高に達している時がローリングも最大ですから、リカバリーの軌跡をたどっても、フォロースルー時が最も高く、そこから手の入水にかけて、ローリングの戻しに連れてリカバリーは徐々に低くなります。即ち、前下がりのリカバリーの軌跡です[写真3]。
 もし、腕の動きに合わせてローリングが行われると、リカバリーの後半で肩の位置が最も高くなりますから、リカバリーの手先は前上がりになり、結果、水中のプルパターンも前上がりになります[写真4]。

 


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